赤旗、アイヌ・エッセー

 今、ドキュメンタリー映画『kapiw(カピウ)とapappo(アパッポ)アイヌの姉妹の物語』が各地で上映され、人気を集めている。また、先日は札幌で「北海道アイヌ協会の創立70周年記念、アイヌ民族文化祭」が行われ、友人から観に行って来たという話を聞いた。札幌駅の改札を出るとすぐにアイヌ伝統の織物が大きく飾られていたり、すすき野にまで通じる地下道にもアイヌ伝統の刺繍を施した織物が...。地元の人に訊くと、こんなにアイヌが前面に出ることはかつて無かったと教えてくれた。こうした一連の流れからも、これまでになくアイヌ文化への関心が高まっていることが窺えるのだが、それは一体何故なのか?


 その答えのヒントを昨年末に札幌で出会ったアイヌのイヴェントから感じ取ることが出来た。それは「アイヌ詩曲舞踊団“モシリ”」の札幌ライブ。アイヌの精神文化の伝統を受け継いだ“モシリ”を率いるのは、屈斜路湖畔で「丸木舟」なるアイヌ系の宿を営む傍ら、これまでに17枚のCD・DVDを発表してもいる長老のアトゥイ。1981年にアイヌ人メンバーによる音楽および舞踊グループとして発足、以来精力的な活動を繰り広げて来た。そして今回の札幌公演は実に12年ぶりという久々の大々的なホール公演となった。


 テーマは“縄文の精神=共生と循環の思想”という提起だ。およそ生きとし生ける者全てと魂の交歓をし、大自然そのものを神として崇め、敬い、怖れ、その厳しさと対時しながら、自然の恵みに感謝して祭りや踊りを神に供して来たアイヌ民族は、極めて縄文的な精神文化を継承している人々だと思う。この縄文時代の“人間は自然の一部にしか過ぎない”という自然観や、精神性、価値観は、紀元前からの遠い記憶を刻んだ世界中の民族音楽とも共通する。そしてその民族音楽に息づいているのはキリスト教や仏教、イスラム教などの三大宗教が興る遥か以前からの世界共通の自然信仰だ。人類の歴史を一度縄文にまで遡って見ると、三大宗教でさえも全て“新興宗教”の部類に入ってしまう。つまりかつては宗教対立など無かったことになる。世界中の人々がそういう人間本来の共通認識、精神に気づき、そこに立ち返ることが出来れば、自ずから平和的な世界が開けるという願いにも近い考えに基づいたものだ。


 この日聴いたアトゥイの“オホホホホーッ”というアイヌの雄叫びは、今も争いの絶えない世界を憂いてか、どこか物哀し気に聴こえた。