赤旗 大島エレジー原稿

 今、巷でちょっとした話題になっている歌がある。タナカアツシが歌っている「大島エレジー」(ヌーマン・レーベルより発売中)だ。“沖縄じゃないの 奄美大島よ”という歌い出しで始まり、“泡盛じゃないの 黒糖焼酎よ”と、日ごろ沖縄と間違えられることの多い奄美の悲哀を面白可笑しく歌い上げ、沖縄と奄美の違いが判らない風潮を巧みに揶揄して見せる。沖縄は沖縄県、奄美大島は鹿児島県なのだが、実際はその区別がつかない人の多いのが実情。が、実際は奄美と沖縄では文化も、歴史も違えば、音楽(唄)も、食、酒も違う。そこを上手く突いているのだが、普通に歌うのではなく、昭和40年代に一時代を築き上げたムード歌謡のスタイルを借りて、しかもしっかり定石通りに女言葉で歌うという徹底ぶりが大ウケしているのである。


 当のタナカアツシは、実は芸人でも何でもなく、本格的な三味線奏者にしてブルース系ギタリスト、そして奄美の卓越した唄者でもある。普段は奄美の国宝級の唄者、朝崎郁恵のバッキングをジンベ奏者の奈良大介と組んだユニット“マブリ”でサポート、久慈出身のシンガー、ゆげみわこのバックも務め、マブリ以外のソロ活動も展開している。というわけで、奄美シマウタで培ったヴォーカルはハンパなく上手い!ライブで耳にした人たちの間から“歌いたいけどカラオケない?”という問い合わせや、CD化を望む声が殺到したのも良く判る。


 実は奄美には鹿児島の島津藩に支配される以前は、琉球王朝に支配されていたという奄美の切なくも哀しい歴史がある。今や流石に恨みつらみもないだろうが、若い世代にも先人からしっかり語り継がれて来ているから、今もその歴史的事実は共通認識として根底にある。だからこそ、奄美人の中には琉球(沖縄)への根強い反発も息づいているし、ましてや支配されたことのある沖縄と奄美をごっちゃにされたくないという意識は強く根付いている。そんな奄美人の日常に感じる言うに言われぬ思いやフラストレーションを、ものの見事に代弁してのけたのが、タナカアツシの歌う「大島エレジー」というわけなのである。これを機会に是非とも一聴を!間違いなく笑えます!